文部科学大臣、政党・国会議員文教委員会委員 様
子どものネットリスク教育研究会代表 大谷良光 (青森大学客員教授)
文部科学省コロナ対策補正予算は、家庭のオンライン環境緊急整備に限定し、不要不急の全小・中校生パソコン措置1951億円の執行を停止し、オンライン環境整備にかかる費用をすべて国庫負担とすること。さらに緊急を要する予算にまわすことを要望します (要望書)
政府は4月30日に2020年度コロナ特別補正予算(第1号)を決定し、うち文部科学省分として2763億円の予算が組まれました。そのうち2292億円(83%)がGIGAスクール構想関連予算であり、うち85%の1951億円がパソコンやタブレット等端末(以下「端末」)購入費です。本来2023年度までに順次整備する予定のものを、コロナ関連として前倒ししたものです。
GIGAスクール構想には、すでに2019年補正予算で2318億円が措置されており、今回のコロナ補正と合わせて約4000億円をかけ、全国の小学校1年生から中学校3年生までの国・公立学校の児童生徒に4.5万円(上限・消費税込み)の端末を、私立校には1/2補助で措置するものです。
コロナ対策として火急と思われる「家計が急変した学生の授業料減免」(7億円)、「新型コロナウイルス感染症対策のための研究開発の加速」(64億円)等の予算に比べても突出しています。
コロナ対策が端末の措置に過大に特化していることについて、臨時国会やマスコミで取り上げられ、批判検討されていないことも問題です。
そこで、(1)コロナ対策補正予算の趣旨からして学校では何が求められているのか、(2)2019年度補正予算に追加してコロナ対策補正予算で端末予算を執行することは、無駄で不適切であること、(3)学校のオンライン学習環境整備は、教師以外の人材派遣がなければ進まないこと、(4)校内LAN環境、人材費予算の1/2が自治体負担では地域格差がさらに拡大することを述べ、下記要望を提出します。
(1)コロナ対策での臨時休校中に必要なのは教師⇔児童生徒間をオンラインで結ぶ仕組み
臨時休校中、オンラインで双方向学習ができるシステムを構築していた学校は全国で5%位(文科省4/21調査発表)でした。また、家庭訪問などの面談による接触をできるだけ避け、教師と児童生徒を結ぶために、民間アプリ等のビデオ会議システム(以下「ビデオ会議」)を活用した市町村も少なくありません。ビデオ会議を利用時の児童生徒の端末は、家庭にあるパソコンやスマホ等の端末を使っている事例もあります。しかし、問題はブロードバンド回線や無線LANルータ(以下「モバイルルータ」)が設置されていない家庭、パソコンやタブレットがない家庭です。また、スマホの利用は学習効率や心身への弊害の点で懸念が大きく、通信料負担も問題になるでしょう。
臨時休校が5月いっぱいに延長し、その後の第2波や災害での臨時休校も想定すると、教師と子どもを結ぶ「遠隔対面」での支援や「遠隔授業」には、主にビデオ会議か5G/LTE通信環境や5G/LTE 対応端末が必要です。全児童生徒の学習権を保障するという観点から、学校・教師-全児童生徒をオンラインで結ぶ仕組みを早急に整えることが必要です。パソコンやタブレットがない、または現在スマホで対応している家庭や児童生徒に対して、学校が所持している端末や2019年補正予算で措置が進みつつある端末を家庭に貸し出し、あわせて、通信環境が整っていない家庭に対しては自治体が民間会社からモバイルルータを借り上げ貸与することで対応可能です。このためにコロナ対策特別補正予算で、国公立学校上限1万円、私立学校1/2補助で、147万台、147億円が組まれ、今年度は国庫負担となっています。しかし通信料は国庫負担の対象外です。
(2) GIGAスクール構想を前倒しするための端末整備追加予算をコロナ特別補正予算に組み込むことは災難に乗じたやり方で結果として無駄 ~貸し出しに必要な端末は2019年度補正予算分で十分~
政府は2019年度補正予算でGIGAスクール構想予算を2318億円計上しており、小学校5、6年生、中学校1年生に相当する児童生徒(全児童生徒の約1/3人分)の端末が学校に届きます(早くて6月か?)。また、自治体によっては「ICT化に向けた環境整備5カ年計画(2018~2022年)」で、一定数の端末がすでに措置されています。これらの端末でオンラインによる「遠隔対面」や「遠隔授業」に対応できます。
モバイルルータ配置予算は147万台分であり、全児童生徒(約957万人)の約15%です。モバイルルータは家庭に1台あれば複数の端末を接続することができるため、兄弟姉妹がいることも考えれば、全世帯数の3割弱に配置できると考えられます。家庭のブロードバンド設置率は7割を超えていますので、その流用を前提にすれば全児童生徒の家庭をカバーできます。
同様に家庭にあるパソコン(普及率72.5%:2017年総務省)、タブレット(普及率36.4%:同)の流用を前提にすれば、貸出用のパソコン等端末はすでに学校に措置されているもので十分足りると考えられます。
全児童生徒を対象とした端末整備追加予算1951億円は不要不急の過剰予算といえます。
(3) ICT支援員(技術面)のみでなく、教師・授業を直接サポートする外部支援員がいなければ、端末の設定もモバイルルータの設定も、授業も進まない
「ビデオ会議」を使った「遠隔授業」を行うにも、その知識のある教師や外部人材がいなければ、子どもも家庭も設定は不可能です。
文科省は、コロナ対策補正予算で、「GIGAスクールサポーターの配置」予算105億円を計上しました。国立学校のみ国庫負担、公立および私立学校は1/2補助です。これは「急速な学校ICT化を進める自治体等を支援するため、ICT関係企業のOBなどICT技術者の配置経費を支援」(文科省事業所別資料集)のように、学校ネットワーク環境の整備やサーバーの管理等を行うための専門的技術者を配置する予算です。予算額は、4校に一人の配置(環境整備5カ年計画)を想定したものですが、平時の学校ネットワーク環境の運用としてはともかく、新規整備時期と非常時の対応を考えると、最低でも各校に1名(約3万人)の配置が必要です。
特に端末を家庭に貸与するためには、セキュリティー関係の設定、出会い系や詐欺等のネット被害から守る、またネット長時間使用を制限するための、ペアレンタルコントロール機能の設定が必要になります。文科省では、これらは教師の仕事と想定しているようです。しかし、今までも「超過勤務」になっていた教師が非常事態宣言下でさらに多忙を極めることになります。また、ネットに不慣れな教師を精神的に追い込むことになり、オンラインで児童生徒との結びつきや遠隔授業を行う学校は、極めて少なくなることでしょう。
これらの業務を補助する教師サポート員を、さらに各校に1名(約3万人)配置すれば、それらの懸念は少なくなります。教師サポート員は、ある程度のICT知識があればよいので、新型コロナの経済的打撃で失職した非正規雇用者や経済的理由で休学せざるを得なくなった学生の一時的な受け皿にもなり得るでしょう。
(4)公立校でのネットワーク・人材費とも補助率1/2、通信費補助なしでは自治体格差が生じる
周知のように従来のICT環境整備予算は、国が「整備目標」をたてそれを予算化しても、「地方財政処置」システムのため、自治体での予算項目優先順位により施行されない場合が多く、過去の整備目標も達成されていないのが現状です。今回の補正予算は特定財源として、端末措置(両補正予算とも)、モバイルルータ措置(コロナ対策補正予算)は全額国庫負担ですが、校内ネットワークの整備、学校からの遠隔学習機能の強化費、人材派遣予算は1/2補助、モバイル通信の通信料は補助なしです。このような補助の在り方では、非常事態宣言下とその後の復旧で財政の逼迫した多くの地方自治体が、校内ネットワークの整備、人材費、通信料を予算化することができず、端末だけは全児童生徒分措置するものの「遠隔授業」のみならず、校内での授業でも全く使われず、各校で荷積みのままになる可能性が極めて高くなります。
よって、校内ネットワークの整備(71億)、学校からの遠隔学習機能の強化費(6億)、人材費(105億)、通信料を100%助成として重点措置し、貸し出しに必要な端末は、2019年度補正予算分とすでに「環境整備5カ年計画」で措置されたもので賄い、コロナ対策補正予算から外しても差し支えないです。
ただ、これらの環境整備の状況は地方自治体によって大きくことなるため、環境整備費の使途内訳を端末措置に限定せず、各自治体の裁量範囲を大きくすることが予算の活用になると考えます。
(5)臨時休校下のメディアの長時間使用によるネット健康被害を懸念。調査と啓発を
私たちの4月末の予備調査(文科省科学研究費 伊藤賢一代表)では、臨時休校下でのメディア漬け、生活習慣の乱れ、ストレスの蓄積等の状況が示唆され、健康被害が拡大していることが懸念されます。
国としても、今後、休校の延長・再要請およびオンライン学習活動の必要性が高まることを見越して、長時間のメディア利用が児童生徒の生活習慣や健康・発達に与える影響について、広範囲に実態調査を行い、専門家による適切な対応策の検討が急務です。
また、ここ数年の研究と調査で明らかになってきているネット被害、ネット健康被害、ネット依存、発達への影響などを、教師、児童生徒、保護者に広く啓発し、適切な使い方を学習する機会を作ることが強く求められます。
しかし、これらの調査・研究・啓発に関する予算はコロナ対策補正には組まれていません。
◆ 要望事項 ◆
「GIGAスクール構想」の新コロナ対策補正予算の組み替えをお願いします
パソコン等の端末整備に限定した国庫負担予算1951億円を廃止し、地域格差をなくし緊急非常事態だからこそ、自治体負担をなくし全額国庫負担で行い、その予算を以下のように配分する①校内ネットワークの整備費、学校からの遠隔学習機能の強化費を全額補助(77億→154億 +77億)
校内ネットワークの整備費 71億→142億
学校からの遠隔学習機能の強化費 6億→12億
②通信料を全額補助(0→530億 +530億)
貸出用モバイルルータの月額費用上限3000円を最大12カ月補助。147万台として530億。
③本年度の人材費の大幅増員と全額補助(105億→1394億 +1289億)
「GIGAスクールサポーターの配置予算」を「4校に1名配置(105億:1/2補助)」から「1校1名(820億:全額補助)」に増員。さらに、専門家でなく多少ICTの知識がある教師サポート員を1校1名(574億:GIGAスクールサポーター単価の7割)を予算措置する
④長時間のメディア利用の調査・対策・啓発費(0→20億 +20億)
パソコン等の端末の長時間利用等に生活習慣・健康・発達に対する影響についての調査・対策研究(2億)
ここ数年の研究と調査で明らかになってきているネット被害やネット健康被害、ネット依存、発達への影響等について、教師研修と子ども、保護者への啓発をするための予算(18億:全国公私立校約36000校対象)を組むこと
⑤ただし、①~④は各自治体におけるモデル的な予算配分とし、各自治体の状況に応じた助成申請に基づき柔軟に措置することを認めること
〈連絡先〉 ■子どものネットリスク教育研究会 大谷良光 東京都八王子市上柚木
Mail: kodomo.netrisk@gmail.com
■ 同研究会 テクノロジーアドバイザー 古野陽一
Mail: y_furuno@virgo.bekkoame.ne.jp
また、解説的な文書を、
分かりやすいので、是非、こちらもお読み下さい。
文科省の説明動画
https://www.youtube.com/watch?
これに対して、私(古野)の意見をNOTEにまとめたものです。
https://note.com/y_furuno/n/
6月25日 「ギャンブル等依存症予防・生徒向け啓発資料(文科省作成)」からゲーム依存症が消えた! 山田太郎参議院議員の圧力が発覚 許されない教育活動への不当な介入
~文部科学省に改めてギャンブル等依存症予防啓発資料を作成・配布してもらう要請にご協力ください~
代表 古野陽一(NPO法人子どもとメディア常務理事)
賛同 大谷良光 (子どものネットリスク教育研究会代表)
世界保健機関の「ゲーム障害」疾病認定などを受け、政府が「ギャンブル等依存症対策推進基本計画」を2019年4月19日に閣議決定しました。それに基づき文科省が進めていた「ギャンブル等依存症予防・生徒向け啓発資料(高校生向けリーフ)」が本年の3月に完成し関係者に配布されました。しかしなぜか1年前に教師用に制作された「ギャンブル等依存症などを予防するために」の指導参考資料(2019年3月)に掲載されていた、「ゲーム依存症」にかかわる記述が綺麗になくなっていたのです。
文科省は平成28年に成立した「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」の付帯決議第10項において、「ギャンブル等依存症に関する教育上の取組を整備すること」などが明記され、「物質依存」のみでなく「行動嗜癖」についても取り上げることを認識し、ギャンブル依存とゲーム依存の予防について高等学校で指導することを高等学校学習指導要領の「解説」で明記しました。
不思議に思っていたところ、山田太郎参議院議員(自民党比例区)が「文科省に働きかけ削除させ、爽やかな内容になった」と自らの【山田太郎のさんちゃんねる】(令和2年4月22日配信)で自慢していることがわかりました。自らが所属する政党の内閣が決めた「基本計画」を否定する不当な行動です。
この自慢を撮影したYouTubeを古野陽一がみつけ、下記のように、不当な事実の拡散と抗議の賛同署名を開始しました。集まり次第それを持って、文科省に改めて啓発資料を制作することを要請したいと考えています。
山田議員はYouTubeでこんなことを語っています。
・啓発パンフには、ゲーム依存症についてたくさん書かれていたがゲーム依存の内容を削除できた。爽やかな内容になった。
・文科省は抵抗したが(私たちが)ダメダメといって全くの別物になった。良かった。
・ただこのパンフの目的がわからない。ギャンブルは高校生はやらないからね。
・目的がないパンフになったが、業者の関係でやめられないのだろう。
・内部情報を得て事前に対応していけばこういうこと(ゲーム依存症予防啓発)を防げる。
そして、山田議員の介入により変更した前後のリーフレットもYouTubの中で紹介しています。
➔ https://youtu.be/cTzcne5b3Y0?t=2258
また、詳しくは古野の下記のブログもご覧下さい。
https://note.com/y_furuno/n/n387ed649159e
そこで古野は、Change.ORGを立ち上げました(*ネット署名の一種)。
読まれて、賛同いただけますなら各自の団体や知り合いに、拡散して下さるとをお願いします。そして、ご賛同いただける方は、賛同登録をお願いします。
注 ChangeORGで署名すると、寄付金を要請するメッセージが現れますが、寄付はしなくても署名はできます。
以上、よろしくお願いします。
テキストでは、左図⇐のような目次で構成され、各分野のネット健康被害について論述しています。
日本医師会館でプレスリリースした内容が、日本医師会のWebに掲載されています。
http://www.med.or.jp/nichiionline/article/006579.html
日本医師会横倉会長の立ち会いで行われました。会見時のブレスリリースの内容も読めますのでご覧下さい。